2024年5月20日、サウジアラビアの政府系基金パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)が、女子テニス協会(WTA)のネーミングライツパートナーとなった。
サウジはスポーツ界への巨額の投資を続けており、米プロゴルフ協会(PGA)との提携、F1グランプリの開催、世界最高年俸サッカー選手との契約など、2021年以降63億ドル(約9860億円)をスポーツ契約に投資している。
WTAは「WTAファイナルズ(女子ツアー最終戦)」を今後3年間サウジアラビアの首都リヤドで開催することとしており、賞金を増額して最高額1525万ドル(約23億8600万円)と発表した。人権侵害と女性抑圧の歴史を持つサウジアラビアで女性ツアーの最終戦を開催するとの決定は、女性の権利運動への打撃だとしてファンや人権団体から批判を浴び、物議を醸した。
今年の2月にPIFが男子プロテニス協会(ATP)の5年間のネーミングライツ・パートナー契約を結んだことも発表され、男子トップ選手のラファエル・ナダルがサウジアラビア・テニス連盟のアンバサダーに就任した。
女子テニス世界ランク1位のイガ・シフィオンテクは中立的な立場をとりつつも提携契約に関し「決定権がない」との見解を示している。一方、3位のココ・ガウフはサウジにおける女性の扱いについては支持しないとした上で「私たちが変化を起こし、質を向上させ、地域社会と関わりを持って状況を変えられるよう願っている」と語っている。
女子テニス界とサウジとの提携に関して、現役・元選手が反発しており1970~80年代にグランドスラム通算59回優勝したマルチナ・ナブラチロワと、ライバルであったクリス・エバートは、米紙ワシントン・ポストに「私たちが女子テニスの発展に貢献したのはサウジアラビアに搾取されるためではない」と論説を寄稿した。
一方、WTAとサウジとの提携協議を支持したビリー・ジーン・キングは、サウジでの開催は女性の権利運動の促進につながるとの見解を示した。
女子テニス協会(WTA)のネーミングライツパートナーとなったサウジアラビアに対する課題はあるものの少なからず前向きな社会改革とも言える。
(フォーブスジャパン掲載より) 【不破 飛鳥ブライアン】